
スタートアップや中小企業にとって、限られた人材や時間のなかで事業を推進していくのは大きな課題です。こうしたリソース不足への対応は、大企業を含むあらゆる企業にとっても共通のテーマとなりつつあります。
BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)は、そうしたリソース不足の悩みを解消し、業務効率化や成長の加速に役立つ手段として注目されています。
本記事では、特にスタートアップや中小企業が押さえておきたい、失敗しないサービスの選び方や活用ポイントを具体的に解説します。
BPOとは?サービスの需要動向や将来性

BPOとは、企業の業務プロセスの一部を外部の専門事業者が代行するサービスです。代表的な例として、ヘルプデスクやコンタクトセンター、営業代行、人事代行などが挙げられます。
株式会社矢野経済研究所の調査によると、2023年度の国内BPO市場規模は約4.9兆円に達し、2028年度には約5.8兆円にまで拡大すると推計されています。市場拡大の背景にあるのは、クラウドシステム普及による中堅・中小企業での利用拡大です。
中小企業がBPOを導入するメリット
中小企業やスタートアップにとって、限られた人材・予算のなかで事業を展開し続けるのは大きな課題です。特に人材確保の面では、大手企業に比べて採用競争で不利になりやすく、人手不足が慢性化している企業も少なくありません。
日本の生産年齢人口(15~64歳)は、1995年頃をピークに徐々に減少傾向にあります。内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、1995年に8,716万人だった生産年齢人口は、2020年には7,509万人にまで減少しています。
こうした中で、限られた労働力の中から必要な人材を確保することは、企業にとって大きな課題となっています。BPOを活用すれば、専門性の高い人材に業務を委託できるため、業務の効率化や生産性の向上が期待できます。特に中小企業では、担当者ごとの属人化が起きやすい傾向にありますが、BPOによって業務の標準化・平準化を進めることが可能です。また、人材採用や育成にかかるコストを削減できる点も大きな利点であり、BPOは決して大企業だけのためのサービスではありません。中小企業こそ活用を検討すべき手段といえるでしょう。
さらに、一部の業務をまとめて外部に委託することで、社内の従業員はコア業務に集中できるようになり、結果として事業成長にもつながります。
BPO導入のステップと注意点
BPO導入は、おおむね以下のステップを踏んで行います。
- 現状分析:BPO導入の目的や社内での課題を洗い出し、委託する業務を検討します。
- 業務選定:検討対象の業務から、委託に適したものを絞り込み、実際に外部委託する業務を確定します。
- ベンダー選定:確定した業務をサービスとして提供している事業者の中から、自社に最適なベンダーを選定します。
- 導入:契約締結後、既存業務の引き継ぎを行い、BPOの運用を開始します。
- 評価:定期的な効果測定で必要な改善を行い、業務の最適化を図ります。
なお、準備が不十分な状態でBPOを急いで導入すると、かえって社内の負担が増加し、失敗につながるおそれがあります。スムーズな導入のためには、委託業務の明確化や社内の受け入れ体制の整備が欠かせません。
中小企業向けBPOサービスの選び方
自社に適したBPOサービスを選定する際には、以下の3点を重点的に確認することが重要です。
- 専門性や実績が十分か
- 業務効率化や改善が期待できるか
- セキュリティ対策が行われているか
BPOサービスを提供する事業者は、それぞれ得意分野や専門性が異なります。委託を検討している業務に対応した専門性や、十分な実績が確認できる事業者を選ぶことが重要です。
また、中小企業によく見られる課題として、人材不足による業務効率の低下が挙げられます。例えば、外注先としてフリーランスを活用しようにも、適切な人材の選定が難しかったり、テレワークの推進によってかえって社内の連携が取りづらくなり、業務が非効率になるといったケースも少なくありません。
BPOの導入によって業務効率の向上が見込めるか、また業務改善の提案を受けられるかどうかも、サービス選定時の重要な判断材料となります。
さらに、BPOの利用に際しては、社内の重要な情報を外部と共有することになるため、プライバシーマークの取得状況など、十分なセキュリティ対策が講じられているかどうかも必ず確認しましょう。
大手BPOと中小BPOの違い
大手BPOは、サービスが標準化されていることが多く、幅広いサービスをまとめて提供する傾向にあります。長年の実績と潤沢な資金力を背景に、最新技術やツールを積極的に取り入れている点も特長です。複数業務を一括して外部委託したい場合や、安定した運用体制を重視する企業に適しています。
一方で、中小BPOは特定の業種や地域に特化したサービスを展開しているケースが多く、柔軟な対応力が強みです。小規模で運営されていることからコストを抑えやすく、大手と比べて委託費用を軽減できる可能性があります。きめ細かなサポートを重視する企業や、コストを重視したい企業に向いています。
特定業務におけるBPOの活用
BPOはどのような業務で具体的に活用されているのでしょうか。ここでは、営業代行、ECサイト運用、コールセンター業務の3つの代表的なケースについて、具体例とあわせて紹介します。
営業代行
営業代行は、営業戦略の立案から商談・受注までの一連の営業活動を外部に委託できるサービスです。以下のようなケースでの活用が想定されます。
- 営業部門の人手が不足しており、複数地域への訪問営業を代行会社に依頼(例:全国対応の営業代行を活用し、1人月あたり平均5〜7件のアポ獲得実績)
- 成約率の低いテレアポ業務を委託し、社内は提案活動に集中
- 効果的なDMを制作できないため、リスト抽出・制作・発送を丸ごと外注(例:月3,000通を一括代行、反応率2.1%→3.8%に改善)
- 顧客への提案資料の作成を依頼し、商談時の訴求力を強化
- 顧客データの分析を委託し、営業戦略の見直しを図る
営業代行は成果が必ずしも契約に直結するとは限りません。そのため、業務内容によっては成果報酬型(例:成約1件あたり5万円〜)の料金体系が採用されることもあります。成果とコストのバランスを見極めながら導入することが重要です。
ECサイト運用
ECサイト運用代行では、商品の登録や更新、受発注処理、出荷業務などを外部に委託できます。以下のような場面での活用が検討されます。
- 出品数が多く、自社で対応しきれない商品説明や画像編集を委託(例:1商品あたり平均15分の作業が月間500点分発生 → 外注で月40時間相当を削減)
- 受注処理に注力するため、梱包・発送業務(月間1,000件以上)を外部倉庫と連携して委託
- 在庫管理の精度に課題があり、入出庫管理や棚卸し、保管状況の確認を定期的に依頼
- 関税や通関手続きが複雑な海外発送を、月50件程度まとめて対応する事業者に依頼
手作業での運用負担が大きい業務をBPO化することで、担当者は商品ラインナップの企画や、リピーター獲得に向けた顧客フォローといった戦略的な業務に集中できるようになります。結果として、受注件数が1.4倍に増加した事例なども報告されています。
コールセンター
コールセンター業務のBPOでは、電話やチャットを通じた顧客対応を専門スタッフが代行します。問い合わせの受電対応だけでなく、発信業務(アウトバウンド)にも対応可能です。以下のような具体的なケースで活用されています。
- 電話予約が集中するホテルの宿泊受付を委託(例:月3,000件以上の受電に対応し、対応率を90%以上に維持)
- 総合案内センターとして、複数サービスへの問い合わせに対応(例:自治体のコールセンターとして1日平均200件の問い合わせに対応)
- 社員数300名規模の企業で、社内からのITや勤怠に関する問い合わせ窓口を外部に委託し、社内ヘルプデスク業務を軽減
- ECサイト運営企業が、購入者からのチャット問い合わせに有人で即時対応(チャット対応時間:9時〜21時、平均返信時間60秒以内)
コールセンターのBPOは、応対品質を一定に保てることが大きなメリットです。対応マニュアルに沿った均一な応対で、クレームや取りこぼしのリスクを軽減できます。また、サービスによっては365日24時間の対応体制も整っており、営業時間外の問い合わせ対応や繁忙期の一時的な増員にも柔軟に対応可能です。
実は身近にあるBPOの拠点ー地方企業こそ導入しやすい理由
近年、BPO企業の拠点は首都圏や大都市圏にとどまらず、全国各地へと広がっています。例えば、2023年には香川県高松市にICT BPOセンターが新設され、さらに2024年には同県内で最大規模となる事務処理センターの拡張が進められています。このように、地方自治体と連携しながら各地に進出しているBPO企業は少なくありません。
全国展開している大手BPO事業者の中には、北海道から九州まで十数カ所に拠点を持つ企業も存在します。自社の所在地にも、実はすでにBPOの窓口やセンターがあるかもしれません。
地域に拠点を持つBPO企業は、地元の商習慣や雇用環境、季節ごとの業務波動など、その地域特有の課題や背景を理解したうえで柔軟な対応ができるという強みがあります。「地元にあるからこそ頼みやすい」「相談しやすい」と感じる中小企業も多く、地方での導入事例も年々増加しています。
まとめ
「業務の効率化が進まない」「コア業務に集中できない」といった悩みを抱える企業では、業務の外注(BPO)を対策のひとつとして検討する価値があります。BPOでは多様な業務を委託できるため、導入を考える際は、まず自社の課題を整理し、どの業務を外部に任せるべきかを見極めることが重要です。