
近年、地方自治体は地域経済の活性化と雇用創出を目的として、IT・ソフトウェア企業の誘致に力を入れています。特に、島根県、新潟県、佐賀県、宮城県、長野県などは、独自の支援策や優遇制度を整備し、企業の新規拠点設立を積極的にサポートしています。本記事では、これらの自治体が提供する具体的な支援内容についてご紹介します。
島根県松江市
島根県松江市は近年、IT・ソフトウェア分野の企業誘致に積極的に取り組んでおり、特にBPO企業に対する魅力的な支援制度を整備しています。
その代表的な施策が「情報サービス産業等立地促進補助金制度」です。この制度では、市外から松江市に進出する情報サービス関連企業に対し、以下の支援を行っています。
- 賃貸オフィスの賃料補助
- 最大8年間、賃料の半額(上限20万円/月)を補助
企業は初期コストを大幅に削減でき、浮いた資金を人材採用や設備投資など、他の経営資源に充てることが可能となります。
さらに、松江市はプログラミング言語Rubyの開発者であるまつもとゆきひろ氏の出身地としても知られています。この縁から、以下の取り組みを行っています。
- 「Ruby City MATSUE プロジェクト」の展開
- Rubyを活用した技術交流の拠点整備や人材育成を推進
オープンソースソフトウェア(OSS)開発の支援や産学官連携が進み、高度なIT人材を確保しやすい環境が整っています。
これらの充実した支援制度とIT人材の集積により、松江市はBPO企業にとって新たな拠点候補として非常に魅力的な選択肢となっています。
新潟県
新潟県はIT・情報関連企業等向けに、コスト面でも優れた環境が整っています。例えば、以下のような制度が用意されています。
- IT企業オフィス開設支援事業補助金
- オフィス賃料の一部(賃料発生日から12ヶ月間は60%)を補助し、固定費を軽減
- 税制優遇措置
- 法人住民税・法人事業税の減免、不動産取得税の免除など
人材確保の支援も手厚く、県内には新潟大学や新潟情報専門学校など、情報系教育機関が多数存在し、多種多様なIT人材を輩出しています。また、県内企業とU・Iターン希望者をマッチングする仕組みが整っており、新規雇用者の給与補助や採用・研修費用の補助も受けられます。
2020年にはINSIGHT LAB株式会社が「新潟研究開発センター」を開設し、自治体DX推進に向けた取り組みを進めています。このように、企業との連携が活発であり、BPO企業にとって新潟県は長期的な成長が見込まれる拠点の一つです。
さらに新潟県には、事業所や社員住宅の賃借料、新規雇用者の給与、採用・研修費用の一部を最大5年間補助する「未来創造産業立地促進補助金」も用意されています。県外からの進出に限らず、県内での増設や拠点の移転にも活用できる制度で、特に非正規雇用者の給与も補助対象となる点が特徴です。
佐賀県佐賀市
佐賀県佐賀市は、情報通信関連企業の誘致に積極的に取り組んでおり、進出を検討する企業に対して多角的なサポートを提供しています。
まず、オフィスの確保支援として、市内のビルや事務所、中心街の空き店舗の情報を収集し、企業に提供しています。これにより、立地選定にかかる負担を軽減し、迅速な拠点開設をサポートしています。
人材確保の面でも、佐賀市は有利な環境を整えています。市内には佐賀大学をはじめ、短期大学が2校、高校が13校、情報系専門学校が2校あり、IT・情報通信分野の人材が豊富です。さらに、専門学校との連携を活かし、企業のニーズに合った人材情報を提供しています。
また、進出企業向けの優遇制度も充実しています。企業の設備投資や雇用を支援するため、以下のような措置が用意されています。
- 固定資産税を5年間免除、その後5年間は税率を半減
- 設備機器の賃借・取得費用の1/2を補助(上限1,500万円)
- オフィス賃料の1/2を補助(3年間)
佐賀県では、高校卒業後に県外へ進学・就職する若者が多く、地元での人材流出が深刻な課題となっています。こうした状況を受けて、佐賀市では人材の地元定着を目指し、教育機関との連携と企業誘致の両面からIT人材の活用と育成に力を入れています。
宮城県仙台市
宮城県仙台市は、情報通信関連企業の誘致に積極的で、進出企業に対して多様な支援策を提供しています。
その代表的な施策が「ソフトウェア業・デジタルコンテンツ業・データセンター立地促進助成金」です。この助成金は、以下の業種を対象としています。
- ソフトウェア業
- 情報サービス業やインターネット付随サービス業に属する事業所
- デジタルコンテンツ業
- 映像・音声・文字情報制作業、デザイン業、広告業、商業写真業など、デジタル技術を用いて製品の製造やサービスの提供を行う事業所
- データセンター業
- 通信回線やコンピュータを用いて顧客の提供データを集約的に管理し、データ処理システムの構築や運用等について付加価値の提供を行う事業所
助成内容は大きく2つに分かれています。まず、新たなオフィスや施設の新設、増設、市内移転を行う企業に対して、投下固定資産額に応じた助成が行われます。具体的には、新規投資に係る固定資産税等相当額の100%が3年間交付され、重点加算地域ではさらに2年間延長されます。
次に、新規雇用者の採用や異動に対する助成があります。新規雇用または異動の正社員(仙台都市圏在住)1人につき100万円、仙台都市圏外在住者には1人につき10万円が加算されます。ただし、新規雇用・異動の正社員(仙台都市圏在住)が5人以上であることが条件となります。
長野県
長野県は首都圏・中京圏・北陸地域との結節点に位置する地理的メリットを活かし、近年ではIT産業の集積を目指す「信州ITバレー構想」を推進しています。
この構想は、Society5.0時代のデジタル社会を担うIT人材・IT企業の集積を促進し、県内産業のDX推進や高度化を加速することを目的としています。産学官が連携し、ITビジネスの創出を促すエコシステムの構築にも取り組んでいます。
この取り組みの一環として、長野県は「ICT産業立地助成金」を通じて、県内に新たに事業所を開設するICT関連企業を支援しています。対象となるのは、情報サービス業やインターネット附随サービス業を営む、創業後3年以上経過し、5人以上の常勤雇用者を有する企業です。助成内容は以下の通りです。
- 建物・設備機器等の取得費用
- 通常の企業には取得費用の10%、高付加価値型と認定された企業には40%を助成
- 建物・設備機器等の賃借料
- 通常の企業には3年間で50%、高付加価値型企業には5年間で60%を助成
- 常勤雇用者の雇用助成
- 通常の企業には1人あたり30万円、高付加価値型企業には110万円を支給
これらの支援策により、長野県はICT関連企業の新規立地や事業拡大を積極的にサポートし、IT産業の集積と地域経済の活性化を図っています。
まとめ
地方自治体は、地域経済の活性化と雇用創出を目的として、IT・ソフトウェア企業の誘致に力を入れています。コスト面の優位性や、地域人材の活用を視野に入れつつ、地方拠点の設立やBPOの活用など、実効性のある展開を具体的に検討してみてはいかがでしょうか。